すっごい、スリルー。
 ぼくはそう思ってどきどきする。
                                  淵に立つ

 伊作先輩は保健委員長で、人たらしの毒薬みたいなひと。
 だけど先輩は誰にも本当は興味がないから、黒くて大っきな目は深い淵みたいで、すごく澄んでるだけだった。
 最近は違う。
 いろいろ渦を巻く目で、先輩はよく闇を見つめてる。
 そんな伊作先輩を、ときどき食満先輩が焼きつきそうな目で見てる。
 そういう間にいると、すごい淵に立って下を見ちゃったみたい。
 ぼくはそうやって背筋をぞくぞくさせながら、最近ひとつ増えた湯呑みをなでている。
























 ふしぎ、ふしぎ。
 僕はそう思って首を傾げる。
                              夢に問う

 善法寺伊作先輩は保健委員長で、うちの委員長代理の竹谷先輩いわく「猛獣使い」。
 猛獣って、他の六年生の先輩方を指すらしい。
 僕にはよくわからない。
 そんなことを聞いたからなのか、夢に伊作先輩が出てきた。
 闇の塊が獣のようで、その獣の前に真っ白い格好をした伊作先輩がじっと立っている。
 じっと見ている。
 あの目を僕は知ってると思ったけど、その時夢は覚めたから、問えなかった。
 ねえ先輩、ああいう目は獣に向けるものじゃないでしょう?
 でも、もしかしたら。
 伊作先輩の方も獣なのだとしたら。



























 綺麗な字だなあ。
 僕はそう思ってほっとする。
                       白に惑う

 伊作先輩は保健委員長で、学園一綺麗な字を書くひと。
 きり丸のお墨付きだし、僕も大いにそう思う。
 少ししか目にする機会のない――医務室には溢れてると思うけど――その字が、僕は好きだった。
 その伊作先輩が、白い、目にまぶしいほど白すぎる紙に何やら書いていた。ひとりで。医務室で。
 真白の紙に筆がすべる。けれども字は見えない。
 先輩が白い字をつづる。白がくるくる回る。
 やあ、どうしたの。
 先輩が言い、たった今書き終わった白紙を灯火にかざす。
 白い紙はちりちりと茶に染まり、何かを浮かびあがらせて燃え尽きた。
 僕はそれを恋文だと思った。

























 大事なんだ。
 ぼくはそう思って嬉しくなる。
                          どこへ行く

 伊作先輩は保健委員長で、ぼくたち用具委員会の委員長食満先輩と同室だ。
 食満先輩がとりわけ大事に直すものがいくつかある。
 丁寧に作られ正されて、伊作先輩のところに行く。
 ぼくはそれを見たことはないけど、伊作先輩がどんな風にお礼を言うか、それを聞いて食満先輩がどんな顔をするのか知っていると思う。
 食満先輩はこの世のありとあらゆるものが伊作先輩を守ればいいと思ってるんだ。
 だけど伊作先輩は。

 夜の明けていくのを見て、せつないねと言った伊作先輩は、どこへ行くだろう。
 それでも食満先輩が見守り続けるのがぼくには分かった。