友の定義



 伊作がしょっちゅう転ぶのは、別に不運のせいではない。実際に脚が悪いのだ。
 原因は知らない。が、今や見てくれからは全く気がつかないほどに動かせているのを、すごいことだと思う。
 俺が出会った時、伊作の片脚は全く動かなかった。
 ずるりずるりと重い荷物を引きずって、それでも伊作はどこにでも行った。
 そして転んだ。

 出会ってから毎日毎日少しずつ、伊作は脚を引きずらなくなった。
 三年経って、普通に歩けるようになった。
 次の一年で走れるようになった。
 足首がくるって曲がっちゃうんだ、とは伊作の言で、
 それを緩和するために、その頃はまだたいそう不器用に伊作は足に包帯を巻いていた。

 転ぶのは不運ではない。
 だが転んだ先に穴があるとか、転んだ瞬間にボールが飛んでくるとか、
 転んだのを回避するために手をついた壁がたまたま腐っていて穴が空くとかいうのは、つくづく不運だと思う。
 伊作の不運は主に「いつか起こること」を「今この場に」呼び寄せるという類のものだ。
 原因は様々だ。事象もありふれている。
 よほどの疑心暗鬼でなければ予測などしようもない。
 予測して動こうなどとしたら、動けないどころか息すらできない。

 風が吹けば箱屋が儲かるんだよ、と伊作はけろっとした顔で言った。あいつの論理は時々わけがわからない。
 巻き込まれた俺にごめんとは言うが、そこまで悪いとは思っていない。
 不運を悲観してもどうしようもないと良く分かっているからだ。
 へこたれない。めげない。前向きに。前のめりで倒れられればいいんじゃないかな。
 伊作は自分にできることとできないことをよく知っている。頼ることを躊躇わない。

 頼り頼られる協力関係か。そう言ったら伊作は口をとがらせた。
 騙し掠め取る敵対関係かもよ。
 許してもらえるんだろう。
 許してあげるだろうよ。
 それは忍でも変わりないと、伊作は言わなかったが俺はそう思っていた。